精神科・内科・心療内科・訪問診療
あすとながまち心身クリニック
宮城県仙台市太白区あすと長町1-2-1
仙台長町メディカルプラザ2階

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第3章 適応障害

適応障害は「明確なストレス因」への反応として、抑うつ・不安・行動の問題が現れる病気です。うつ病との鑑別と、職場・学校・家庭との調整、そして「ストレス因から距離を取る」介入が治療の中心となります。

1.適応障害とはどのような病気か

適応障害(Adjustment Disorder)は、明確に同定できるストレス因への反応として、ストレス因の発生から3か月以内に情緒的・行動的症状が出現し、その重大性に不釣り合いに大きな苦痛、または社会的・職業的機能の障害をきたす状態です(APA, 2022)。ストレス因が終結すれば、症状は通常6か月以内に消失します。典型的なストレス因は、職場の人間関係やハラスメント、転職・異動・昇進、家族関係の悪化、離婚、死別、病気の発症、経済的困難、子育てや介護の負担などです。症状はストレス因に直面するとき・思い出されるときに強まり、距離を取れる場面(休暇など)では和らぐことが特徴です。

2. 症状と疫学

適応障害は精神科外来で最も多い診断の一つで、外来受診者の5〜20%を占めるとされます(Casey, 2009)。職場のストレスを背景とした労災請求件数も年々増加しています(厚生労働省)。症状は、抑うつ気分、涙もろさ、不安・緊張、易怒性、不眠、食欲不振、集中力低下のほか、欠勤・遅刻の増加、衝動的な退職希望など行動面にも及びます。頭痛、動悸、めまい、吐き気などの身体症状を伴うことも多くあります。素因として、完璧主義や対人過敏性、サポート資源の少なさが知られ、ADHDやASDなど神経発達症のある方は職場・学校で負荷を蓄積しやすく、適応障害として顕在化することが多くあります。

3. うつ病との鑑別と経過

適応障害とうつ病の重要な違いは、①ストレス因と症状の時間的関連、②症状の重症度と持続期間、③ストレス因から離れたときの反応性、にあります。適応障害では症状がストレス因と連動し、離れる場面では和らぎます。うつ病では症状がストレス因と独立して持続し、休日や転職後も改善しないことが特徴です。適応障害はストレス因の解消・距離化がうまくいけば数週間〜数か月で軽快することが多く、追跡研究では約70%が完全寛解する一方、約20%はうつ病など他の精神疾患に移行するとの報告があります(Andreasen & Hoenk, 1982)。長期化により移行が起こりうるため、診断後も継続的な評価が必要です。

4. 治療の全体像

環境調整

治療の中心はストレス因への対処です。職場が背景にある場合は、診断書による休職、配置転換の相談、産業医・人事との連携、勤務時間の調整などを進めます。「環境を変えなければ良くならない」場面も多く、薬だけでは不十分なことが本疾患の特徴です。

精神療法

ストレスマネジメント、問題解決療法、認知行動療法(CBT)など、ストレスとの付き合い方を扱う精神療法的アプローチも有効とされています。

薬物療法

適応障害そのものへの第一選択薬はありませんが、不眠・不安・抑うつ症状が強い場合には、睡眠薬や抗不安薬、SSRIなどを対症的に短期間用いることがあります。ベンゾジアゼピン系抗不安薬は依存性のリスクがあるため「短期・少量・必要時のみ」を原則とします。

5.当院での治療方針

初診時に、ストレス因の特定、症状との時間的関連、回避可能性、サポート資源、これまでの対処パターンを詳しく伺い、「いま最も負荷がかかっているものは何か」「今後数か月、何を優先して守るべきか」をご本人と一緒に整理します。必要に応じて休職診断書を発行し、職場との調整方法や復職時期の検討を支援します。症状が落ち着いた段階では、再発予防のため「ストレスとの付き合い方」「自分の警報サイン」を診察のなかで一緒に確認してまいります。より専門的な心理療法が必要と判断される場合は、それを提供できる連携医療機関へのご紹介も行います。

受診の目安

以下のような状態がある方は、適応障害の可能性があります。ご自身で判断せず、まずはご相談ください。

  • 転職・異動・昇進・転居など、生活の変化の後から不調が続いている
  • 特定の場所(職場・学校・家庭)で症状が悪化し、離れると和らぐ
  • 「日曜の夜になると憂うつ」「月曜の朝に動悸・吐き気が出る」
  • 出勤・登校が苦痛で、欠勤や遅刻が増えている
  • 「もう辞めたい」「逃げたい」という気持ちが頻繁に湧く
※診断書・休職のご相談も承ります。

院長より、患者さまへ

適応障害は「弱いから起きる病気」ではなく、環境の負荷と個人のリソースのバランスが崩れたときに、誰にでも起こりうる病気です。我慢して悪化させる前に、ぜひ早めにご相談ください。

参考文献

  • American Psychiatric Association. (2022). DSM-5-TR.
  • Casey P. (2009). Adjustment disorder: epidemiology, diagnosis and treatment. CNS Drugs, 23(11), 927-938.
  • Andreasen NC, Hoenk PR. (1982). American Journal of Psychiatry, 139(5), 584-590.